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AIマスタリングを使えば、曲をアップロードしたりボタンを押したりするだけで、配信できる音量と質感に整えられます。ただし、ツールによって「どこで処理するか」「どこまで調整できるか」「料金の仕組み」が大きく違います。この記事では、FL Studio内蔵のFL Cloud Mastering、iZotope Ozone 12、LANDRなどを比較し、目的別の使い分けを解説します。
結論を先に言うと、FL Studioユーザーがまず試すならFL Cloud Mastering、細かく追い込みたいならOzone 12、DAWを問わず手軽に済ませたいならLANDRが向いています。どのツールを使う場合でも、良いマスターの前提は良いミックスです。
この記事でわかること
- 主要なAIマスタリングツールの違い(処理場所・調整幅・料金体系)
- FL Cloud Mastering、Ozone 12、LANDRの特徴と使い方
- 目的別のおすすめと、AIマスタリングで失敗しないコツ
AIマスタリングとは?手作業との違い
AIマスタリングとは、曲を解析して、EQ・コンプ・リミッターなどの設定を自動で決める仕組みです。手作業のマスタリングと同じ処理を、短時間で一定の品質で行えるのが利点です。
一方で、AIは「この曲で何を聴かせたいか」までは判断できません。ドロップのキックを主役にしたいのか、ボーカルを前に出したいのかは、人が決める必要があります。そのため、AIの結果をスタート地点にして、最後に耳で確認する使い方がおすすめです。
| 比較 | AIマスタリング | 手作業のマスタリング |
|---|---|---|
| 時間 | 数秒〜数分 | 慣れても1曲に時間がかかる |
| 必要な知識 | 少なくてよい | EQ・ダイナミクス・ラウドネスの知識が必要 |
| 細かい調整 | ツールが用意した範囲内 | 自由 |
| 向いている場面 | デモ、SNS用、リリースの叩き台 | こだわりのあるリリース曲 |
手作業の流れを知っておくと、AIの結果の良し悪しも判断しやすくなります。基本はプロが行うマスタリングの6手順で解説しています。
この記事の手順は FL Studio Template Pro に設定済みです。 詳細を見る →
主要AIマスタリングツールの比較表
選び方の軸は「DAWの中で完結するか」「パラメーターをどこまで触れるか」「無料でどこまで使えるか」の3つです。2026年10月時点の公開情報をもとに整理しました。
| ツール | 処理する場所 | 調整できる範囲 | 無料で使える範囲 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| FL Cloud Mastering | FL Studio内(処理はクラウド) | ラウドネス目標。加入者はジャンル、参照曲、Bass・Mid・Brightness・Warmth、エキサイター、マルチバンドコンプ、ワイドナー | Defaultプリセットで利用可 | FL Studioユーザー全般 |
| iZotope Ozone 12 | DAWのプラグイン(ローカル処理) | Master Assistantの提案から、各モジュールを細かく調整(グレードによる) | 製品版は有料(体験版あり) | 音を追い込みたい人 |
| LANDR | Webブラウザ・アプリ・プラグイン | スタイル、強さ、ラウドネス、参照曲 | マスターのプレビューは無料。ダウンロードは有料 | DAWを問わず手軽に済ませたい人 |
| BandLab Mastering | Webブラウザ・アプリ | プリセットの選択 | 無料で利用可(詳細はBandLabで確認) | まず無料で試したい人 |
料金とプランは変わりやすいので、具体的な価格は各公式サイトで確認してください。
FL Cloud Mastering:FL Studioユーザーの最初の選択肢
FL Studioを持っているなら、追加の買い物なしで試せるFL Cloud Masteringが最初の候補です。FL Studio 21.2で導入された機能で、書き出しの画面からそのまま使えます。
使い方
- ミックスを仕上げ、マスタートラックのリミッターなどは外しておきます。
- 「File」→「Export」→「Master (FL Cloud)」を選びます。
- ラウドネス(LUFS)の目標をスライダーかプリセットで決めます。主要な配信サービス向けの目安プリセットも選べます。
- 加入者はジャンルを自動判別させるか、手動で選びます。「Reference」は、市販曲で一般的なマスタリングの傾向に寄せる設定です。
- 処理後、元の音とマスター後の音を切り替えて比較し、問題なければ書き出します。
処理にはインターネット接続が必要です。書き出し形式などの設定は、通常のExport画面と同じです(公式マニュアル)。
無料と有料(FL Cloud加入者)の違い
| 項目 | 無料 | FL Cloud加入者 |
|---|---|---|
| プリセット | Default のみ | ジャンル別プリセット、自動判別 |
| 比較 | 処理前後の比較 | 最大2つのプリセットを比較 |
| 微調整(Parameters Tuning) | なし | 参照曲、Bass・Mid・Brightness・Warmth(-1〜+1)、HF / LF Exciter、MB Compressor、Widener |
FL Cloudにはサウンドライブラリや配信機能も含まれます。プランの内容はFL Cloudの公式ページで確認してください。
FL Studio純正プラグインと組み合わせる
FL Cloud Masteringで方向性をつかんだら、同じ考え方で純正プラグインのチェーンを組むのも良い練習になります。FL Studio 2025.1ではAll Plugins Edition向けにマスタリング用リミッター「Emphasis」が、2025.2では全エディションに簡易版の「Emphasizer」が加わりました。従来のMaximusやFruity Limiterも引き続き使えます。
iZotope Ozone 12:AIの提案を細かく追い込める定番
Ozone 12は、AIの提案と手作業の調整を両立したい人に向いたマスタリングプラグインです。2025年9月に発売され、Elements・Standard・Advancedの3グレードがあります。なお、iZotopeは2026年7月にBoris FXに買収されましたが、既存のライセンスとサブスクリプションは継続すると発表されています。
Master Assistantの流れ
- マスタートラックの最後にOzone 12を挿します。
- Master Assistantを開き、ジャンルの目標や参照曲、LUFSの目標を設定します(Custom flow)。
- 曲の一番盛り上がる部分(EDMならドロップ)を再生して解析させます。
- 提案されたチェーンを聴き、各モジュールの量を調整します。
グレードによる違い
iZotope公式の比較表によると、主な違いは次のとおりです(Ozone 比較ページ)。
| 機能 | Elements | Standard | Advanced |
|---|---|---|---|
| Master Assistant | ○ | ○ | ○ |
| 個別モジュールの細かい操作 | 限定的 | ○ | ○ |
| Maximizer(IRC 5) | — | ○ | ○ |
| Bass Control、Match EQ、Master Rebalance | — | ○ | ○ |
| Stem EQ、Unlimiter、Clarity | — | — | ○ |
Stem EQは、2ミックスの中のボーカル・ベース・ドラムなどを別々にEQできる機能です。Unlimiterは、潰れすぎた音源のトランジェントを機械学習で復元します。AIで生成した曲や、ステムが手に入らない曲の仕上げに役立ちます。
LANDR:DAWを選ばずWebで完結
LANDRは、曲をアップロードするだけでマスタリングできるオンラインサービスです。DAWを問わず使えるので、共同制作の相手が別のDAWを使っている場合にも便利です。
- 無料でプレビュー:マスター後の音は無料で試聴できます。ダウンロードには有料プランか1曲単位の購入が必要です。
- 調整:強さとラウドネスの異なる複数のスタイルから選べます。参照曲をアップロードして、似た音の傾向に寄せる機能もあります。
- 形式:WAV、AIFF、FLAC、MP3を受け付け、MP3(320kbps)、WAV(16bit)、HD WAV(24bit)で書き出せます。アップロードは非圧縮のWAVかAIFFが推奨です。
- プラグイン版:DAWの中で使えるLANDR Mastering Pluginもあります。
詳細はLANDRのマスタリングページで確認してください。なお、LANDRは2026年1月にReason Studiosを買収しています。
そのほかのAIマスタリング
手持ちの環境で使えるものから試すのが、コストを抑えるコツです。
- BandLab Mastering:無料で使えるオンラインのマスタリングです。プリセットから選ぶだけのシンプルな仕組みで、追加機能は有料のメンバーシップで提供されています。条件はBandLabの公式ページで確認してください。
- Logic Pro の Mastering Assistant:Logic Proユーザーなら、DAW内蔵のマスタリング機能を使えます。
- 配信サービスのマスタリング:一部のディストリビューターは、配信とセットのマスタリングを提供しています。配信先を決めている場合は確認してみましょう。
目的別:AIマスタリングの使い分け
迷ったら、「今どの段階の曲か」で選ぶと失敗しません。
| 場面 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 制作途中のデモを友人やSNSで共有 | FL Cloud Mastering(無料のDefault) | 書き出しのついでに数秒で整う |
| レーベルへのデモ提出 | Ozone 12、またはFL Cloud加入者の微調整 | ジャンルの基準に寄せつつ、自分で追い込める |
| リリース曲 | Ozone 12+耳での最終確認 | モジュール単位で問題を直せる |
| 別のDAWの人との共同制作 | LANDR | DAWを問わず同じ結果を共有できる |
| AIで生成した曲の仕上げ | Ozone 12 Advanced(Stem EQ、Unlimiter) | 2ミックスのままでもパートごとに補正できる |
AIで作った曲を仕上げる全体の手順は、Suno曲をFL Studioで仕上げる方法で解説しています。
AIマスタリングで失敗しないコツ
AIマスタリングの結果は、渡すミックスの状態でほぼ決まります。次の点を守るだけで、仕上がりが安定します。
- ミックスにヘッドルームを残す:マスタートラックのピークが-6dB〜-3dB程度になるようにし、リミッターは外します。
- 低域を先に整理する:キックとベースがぶつかったままだと、AIは低域全体を削るか持ち上げるかしかできません。サイドチェーンやEQで整理しておきます。
- 音量をそろえて比較する:マスター後の音は大きいので、良く聴こえがちです。同じ音量にして聴き比べましょう。
- ラウドネスは配信先の基準を目安にする:Spotifyは-14 LUFSを基準に音量をそろえ、トゥルーピークは-1dB以下(-14 LUFSより大きい場合は-2dB以下)を推奨しています(Spotify for Artists)。
- 複数の環境で聴く:ヘッドホン、スピーカー、スマホで聴き、低域の出すぎや高域の痛さがないか確認します。
よくある失敗は、AIの結果が物足りないからといって、ラウドネスの目標を上げすぎることです。音圧を上げるほどダイナミクスが失われ、配信では音量を下げられて、かえって迫力がなくなります。迫力が足りないと感じたら、マスタリングではなくミックスに戻って、キックやベースのバランスを見直しましょう。ミックスの基本はEDMのmixのやり方、帯域の確認にはアナライザーの使い方が参考になります。
AIマスタリングの結果をチェックする方法
AIの出力は「聴いて問題がないか」を自分で判断して初めて完成です。特にEDMは低域とドロップの迫力が重要なので、次の症状が出ていないか確認しましょう。
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| ドロップでキックが小さくなる | リミッターがかかりすぎ、キックのアタックが潰れている | ラウドネスの目標を下げる。ミックスでキックとベースの重なりを減らす |
| 高域が耳に痛い | 明るめのプリセットやエキサイターが効きすぎている | 落ち着いたスタイルを選ぶ。FL Cloud加入者はBrightnessを下げる |
| 低域がふくらんでこもる | ミックスの時点で低域が多い | ミックスに戻ってベース以外のパートにローカットを入れる |
| モノラルで聴くと音が消える | ステレオを広げすぎて位相がずれている | ワイドナーを弱める。低域はモノラルにまとめる |
| イントロとドロップの差がなくなる | 圧縮が強く、ダイナミクスが失われている | 強さを1段下げる。曲の展開そのものも見直す |
チェックの手順
- マスター前とマスター後を、同じ音量にそろえて聴き比べます。
- イントロ、ビルドアップ、ドロップをそれぞれ再生し、展開ごとの差が残っているか確認します。
- モノラルに切り替えて、ベースやリードが消えないか確認します。
- 市販のリファレンス曲と交互に聴き、低域の量と高域の明るさを比べます。
- 問題があれば、マスタリングの設定を変える前に、ミックスで直せないかを先に考えます。
ステレオの扱いはステレオイメージの広げ方、EQの基本はEQの使い方で詳しく解説しています。ドロップの迫力そのものを上げたい場合は、ドロップの作り方も参考にしてください。
よくある質問
無料のAIマスタリングだけでリリースしても大丈夫ですか?
配信できる品質にはなりますが、ミックスに問題があるとそのまま残ります。無料ツールを使う場合も、音量をそろえた比較と、複数の環境での確認は必ず行いましょう。
FL Cloud MasteringとOzone 12はどちらを選ぶべきですか?
まずはFL Studioに付いてくるFL Cloud Masteringで十分です。「低域だけ締めたい」「ボーカルだけ前に出したい」など、部分的に直したくなったらOzone 12を検討しましょう。
Ozone 12はElementsでも十分ですか?
Master Assistantの提案をそのまま使うならElementsでも始められます。ただし、公式の比較表ではElementsは個別モジュールの細かい操作が限られ、Maximizer(IRC 5)やBass ControlはStandard以上です。自分で追い込みたい人は、最初からStandard以上を検討するとよいでしょう。体験版で確かめてから選ぶのが確実です。
AIマスタリングの前に、マスタートラックのリミッターは外すべきですか?
外すのがおすすめです。リミッターをかけた音を渡すと、AIが調整できる余地が少なくなります。音割れ防止のために残す場合は、かかりを最小限にしておきましょう。
まとめ
- FL StudioユーザーはまずFL Cloud Mastering(無料はDefaultプリセット)から試す。
- 部分的に追い込みたいならOzone 12、DAWを問わず手軽に済ませたいならLANDRが向いている。
- AIマスタリングの結果はミックス次第。ヘッドルームを残し、音量をそろえて比較し、-14 LUFS前後を目安にする。
次に読むなら、マスタリングの6手順、Maximusの使い方、EDMのmixのやり方がおすすめです。プロのEDMのミックスバランスやマスターチェーンを実際のプロジェクトで確認したい人は、完成済みのFL Studioテンプレートを開いて比べてみてください。

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