「この曲のボーカルだけ取り出したい」「ドラム抜きの音源で練習したい」という悩みは、AIのステム分離で解決できます。FL Studio(Producer Edition以上)なら、プラグインを追加しなくても標準機能でボーカル・ドラム・ベース・その他の4パートに分けられます。
この記事では、FL Studio内蔵のステム分離の使い方と、Ultimate Vocal Remover などの無料ツールを比較しながら解説します。あわせて、抽出したボーカルを使うときに必ず知っておきたい著作権の注意点もまとめました。
この記事でわかること
- FL Studioの「Extract stems from sample」の手順とオプション
- 無料で使えるステム分離ツール(UVR、Audacity、Demucs)の特徴と使い方
- 分離の精度を上げるコツと、抽出したボーカルの活用法
- 他人の曲から抽出したボーカルを使うときの著作権の注意点
ステム分離とは?できること・できないこと
ステム分離とは、ミックス済みの曲(2ミックス)を、AIでボーカル・ドラム・ベースなどのパートに分ける技術です。以前は「ボーカルキャンセラー」のような簡易的な方法しかありませんでしたが、今は機械学習によってかなり自然に分けられるようになりました。
| できること | 難しいこと |
|---|---|
| ボーカルとオケ(伴奏)を分ける | コーラスとメインボーカルを分ける |
| ドラム・ベースを取り出す | 同じ帯域で重なるシンセ同士を分ける |
| 耳コピ・練習用の音源を作る | リバーブやディレイだけを取り除く |
| リミックスやマッシュアップの素材を作る(権利の確認は必要) | 元のマルチトラックと同じ音質に戻す |
分離した音には、どうしても他のパートの音がわずかに混ざります(にじみ)。ソロで聴くと気になっても、曲の中に混ぜると目立たないことが多いので、用途に合わせて割り切ることが大切です。
ステム分離の方法を比較
FL Studio Producer Edition以上を持っているなら内蔵機能、より細かくモデルを選びたいなら無料のUltimate Vocal Remover(UVR)がおすすめです。主な方法を比較します。
| 方法 | 料金 | 分けられるパート | 対応OS | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| FL Studio 内蔵(Extract stems from sample) | Producer Edition以上に付属 | Drums / Bass / Instruments / Vocals | Windows / Mac | Playlist上でそのまま作業できる |
| Ultimate Vocal Remover(UVR) | 無料(オープンソース) | モデルにより2〜複数パート | Windows / Mac | 複数のAIモデルを選べる。細かく調整できる |
| Audacity + OpenVINO AIプラグイン | 無料 | 2パート(ボーカル/伴奏)または4パート | Windows。Macは Audacity 3.7.4以降で対応と発表 | 無料の波形編集ソフトで完結 |
| Demucs | 無料(オープンソース) | 4パート(6パートのモデルもあり) | Windows / Mac / Linux | コマンドで操作。2025年に元のリポジトリは更新停止 |
| 他のDAWの内蔵機能 | 各DAWに付属 | DAWによる | — | Ableton Live 12.3以降(Suite)、Cubase 15 Pro などにも搭載 |
オンラインの分離サービスも多くありますが、無料で使える範囲や、アップロードした音源の扱いはサービスごとに違います。利用規約を確認してから使いましょう。
この記事の手順は FL Studio Template Pro に設定済みです。 詳細を見る →
FL Studio内蔵のステム分離の使い方
FL Studioでは、オーディオクリップのメニューから「Extract stems from sample」を選ぶだけでステム分離ができます。FL Studio 21.2で追加された機能で、Image-Lineの告知ではProducer Edition以上で使えます。
手順
- 分離したい曲(WAVかMP3)をPlaylistにドラッグして置きます。
- オーディオクリップ左上の小さなアイコンをクリックして、クリップメニューを開きます。
- 「Sample」→「Extract stems from sample」を選びます。
- Drums / Bass / Instruments / Vocals から、取り出したいパートにチェックを入れます。
- 実行すると、チェックしたパートごとに新しいPlaylistトラックが作られ、ステムが配置されます。
初めて使うときは、分離用のAIモデルのダウンロードを求められます。オフラインのPCで使う場合は、ネットにつながったPCでダウンロードした後、ファイルをコピーする方法がImage-Lineのサポートで案内されています。
オプションの意味
| オプション | 内容 |
|---|---|
| Limit CPU usage | CPUの負荷を抑え、処理中もパソコンが重くなりすぎないようにする |
| Safe mode | 音のトラブルやクラッシュが起きたときに使う。古いCPUでは処理に対応していない場合がある |
| ミュートの設定 | 元のオーディオクリップや元のトラックをミュートするかどうか。ミュートしておくとステムだけを確認しやすい |
| Group playlist tracks | 作られたステムを元のトラックとグループにまとめる |
FL Studio 2025.2以降は、各ステムを別々のミキサートラックに送るオプションも加わりました。処理中はFL Studioが一時的に操作できなくなり、長い曲では数分かかります(公式マニュアル)。
うまく動かないとき
- モデルのダウンロードが始まらない場合は、まずFL Studioを最新版にアップデートします。
- クラッシュする場合は、Safe modeを試します。
- Fruity Editionを使っている場合は、次に紹介する無料ツールで分離したステムを読み込みましょう。
無料ツールでステム分離する方法
無料ツールの定番は、Ultimate Vocal Remover(UVR)です。複数のAIモデルから選べるので、曲に合わせて結果を比べられます。どのツールも、公式の配布元からダウンロードすることが大前提です。名前の似た非公式サイトや改変版は避けましょう。
Ultimate Vocal Remover(UVR)
UVRは、MITライセンスで公開されているオープンソースのデスクトップアプリです。WindowsとMac(Apple Silicon / Intel)向けのインストーラーが公式GitHubのリリースページで配布されています。PythonなどのUVRの動作に必要なものは同梱されています。
- 公式GitHubのリリースページから、自分のOS用のインストーラーをダウンロードしてインストールします。Windowsでは、Cドライブへのインストールが推奨されています。
- UVRを起動し、入力ファイル(分離したい曲)と出力先のフォルダを選びます。
- 処理方法(Process Method)とAIモデルを選びます。モデルは初回に追加ダウンロードが必要です。
- 「Vocals Only」「Instrumental Only」など、出力したいパートを選びます。
- 出力形式をWAVにして「Start Processing」を押します。
メモリ不足のエラーが出た場合は、「Segment」や「Window」のサイズを下げると解決することが多いと案内されています。初回起動は時間がかかることがあります。
Audacity + OpenVINO AIプラグイン
無料の波形編集ソフトAudacityに、Intelが提供する無料のOpenVINO AIプラグインを入れると、ステム分離ができます。Audacityの公式ブログでは、Audacity 3.7.4からmacOSにも対応したと発表されています(Audacity公式ブログ)。
- Audacityを最新版にし、OpenVINO AIプラグインをインストールします。
- 曲を読み込み、全体を選択します。
- エフェクトメニューの「OpenVINO AI Effects」から Music Separation を選びます。
- 2パート(ボーカル/伴奏)か4パート(ボーカル・ドラム・ベース・その他)を選んで実行します。
処理はパソコンの中で行われ、インターネット接続は不要です。Audacityの公式ガイドでは、多くの曲では2パートのモードのほうがうまくいくと説明されています。
Demucs(上級者向け)
Demucsは、Meta(旧Facebook)の研究チームが公開したステム分離のAIモデルで、UVRなど多くのツールの中でも使われています。コマンドで操作するので、Pythonに慣れた人向けです。元のリポジトリは2025年1月にアーカイブされ、開発者の個人リポジトリで重要な不具合修正のみが続けられています(Demucs GitHub)。標準のモデルはhtdemucsで、ギターとピアノも分ける6パートのモデルもありますが、ピアノの精度は高くないと説明されています。
目的別:どの方法を選ぶべきか
迷ったら、「どのDAWを使っているか」と「どこまで品質を求めるか」で選びましょう。
| こんな人 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| FL Studio Producer Edition以上を持っている | FL Studio内蔵 | 書き出しや読み込みの手間がなく、そのまま制作に入れる |
| Fruity Editionや他のDAWを使っている | UVR | 無料で、分離したWAVをどのDAWにも読み込める |
| ボーカルの品質にこだわりたい | UVR(複数モデルで比較) | 曲ごとに得意なモデルを選べる |
| 波形編集もまとめて済ませたい | Audacity+OpenVINO | 分離後のカットやフェードも同じソフトでできる |
| 大量の曲を一括で処理したい | Demucs | コマンドで自動化しやすい |
FL Studio内蔵機能で十分な場面が多いですが、ボーカルのにじみが気になる曲では、UVRで別のモデルを試すと改善することがあります。最初は内蔵機能、うまくいかない曲だけUVR、という使い分けが効率的です。
きれいに分離するコツ
分離の精度は、元の音源の質とツールの選び方で大きく変わります。次の点を意識しましょう。
- できるだけ高音質の音源を使う:圧縮の強いMP3より、WAVやロスレスの音源のほうがにじみが少なくなります。
- 目的に合わせてパート数を選ぶ:ボーカルだけが欲しいなら、4パートより「ボーカル/伴奏」の2パートで分けたほうがきれいなことが多いです。
- 複数のツールで比べる:曲によって得意なモデルが違います。FL Studio内蔵とUVRの結果を聴き比べてみましょう。
- 後処理で整える:残ったにじみは、EQで不要な帯域を削ったり、ゲートで無音部分を整えたりすると目立たなくなります。
よくある失敗は、分離したボーカルをソロで聴いて「使えない」と判断してしまうことです。新しいトラックに混ぜてみると、にじみがほとんど気にならない場合も多くあります。後処理にはParametric EQ2やEdisonが便利です。
抽出したボーカルの活用法
取り出したボーカルは、EDM制作ではボーカルチョップやリミックスの素材として使えます。ただし、他人の曲から抽出した素材を公開する場合は、次の章の著作権の確認が先です。
- ボーカルチョップ:SliceXでボーカルを細かく切り、ピアノロールで並べ替えてメロディを作ります。
- ピッチ補正・キー変更:Pitcherでピッチを調整したり、キーを合わせたりします。
- 耳コピ・練習:ベースやドラムだけを聴いて、プロのフレーズや音作りを研究します。
- 自作曲やAI曲の仕上げ:2ミックスしか残っていない自分の曲やAIで生成した曲を分けて、ミックスし直します。手順はSuno曲をFL Studioで仕上げる方法で解説しています。
抽出したボーカルを使うときの著作権の注意
ステム分離そのものは技術ですが、他人の曲から取り出したボーカルを、許可なく公開・配信することはできません。1つの曲には、複数の権利が重なっているからです。
| 権利 | 誰が持つか | ボーカルとの関係 |
|---|---|---|
| 著作権 | 作詞者・作曲者(または音楽出版社など) | 歌詞とメロディが含まれる |
| 実演家の権利(著作隣接権) | 歌手 | 歌唱そのものに関わる |
| レコード製作者の権利(著作隣接権) | 原盤を作ったレーベルなど | 録音された音源そのものに関わる |
自分で聴く、練習する、耳コピをするといった、個人的に楽しむ範囲の利用は、一般的に私的使用の範囲と考えられます。一方、抽出したボーカルを使ったリミックスやマッシュアップを、YouTube・SoundCloud・配信サービスで公開する場合は、権利者の許可が必要です。無料で公開する場合や、「非公式リミックス」と書いた場合でも同じです。
- 公式のリミックスコンテストや、ステムが公式に配布されている曲を使うのが安全です。
- YouTubeでは、Content IDにより自動で検出され、収益化の停止やブロックの対象になることがあります。
- AIで生成した曲を分離する場合も、そのAIサービスの規約に従う必要があります。
許可の取り方やリミックスをリリースするまでの流れは、他人の楽曲のリミックスを作る方法で解説しています。自分の曲にボーカルを入れたい場合は、ボーカリストに依頼する方法(ボーカリストの探し方)も検討しましょう。判断に迷う場合は、専門家に相談してください。
よくある質問
FL Studio Fruity Editionでもステム分離はできますか?
Image-Lineの告知では、ステム分離はProducer Edition以上の機能です。Fruity Editionの場合は、UVRなどの無料ツールで分離したWAVを読み込んで使いましょう。
ボーカルを完全にきれいに抜き出せますか?
完全にはできません。リバーブやコーラス、同じ帯域の楽器が少し残ることがあります。用途によっては、EQやゲートの後処理で十分に使えるレベルになります。
抽出したボーカルでリミックスを作り、SoundCloudに上げてもいいですか?
権利者の許可がない場合は避けてください。公開した時点で、著作権や著作隣接権の侵害になるおそれがあります。公式のリミックスコンテストなど、許可された素材を使いましょう。
まとめ
- FL Studio Producer Edition以上なら、クリップメニューの「Extract stems from sample」で4パートに分けられる。
- 無料ならUVRが定番。Audacity+OpenVINOやDemucsも選択肢。必ず公式の配布元から入手する。
- 他人の曲から抽出したボーカルの公開・配信には、権利者の許可が必要。
次に読むなら、SliceXでボーカルチョップを作る方法、リミックスを作る方法、Suno曲をFL Studioで仕上げる方法がおすすめです。プロのボーカル処理やミックスを実際のプロジェクトで確認したい人は、FL Studioテンプレートも参考にしてください。

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